2013年8月16日金曜日

ジョージ王子誕生で異変? 英王室と名前の流行

赤ちゃんを披露するウィリアム王子(右)
とキャサリン妃(7月23日)=ロイター
英国のウィリアム王子の妻、キャサリン妃が7月22日、ロンドン市内の病院で第1子となる男児を出産し、待望の「ロイヤルベビー」の誕生に世界中が祝福ムードに沸いている。男児の名前は「ジョージ」。王位継承順位がウィリアム王子に次いで3位となる新王子の誕生である。
 過去にこのコラムでは、日本人だけでなく、欧米やアジアなどの名前、名字にまつわる様々なウンチク(巻末、電子書籍「名前のナゾ なるほど大百科 東に佐藤、西に田中が多いワケ」を参照)について取り上げてきた。そこで今回は「ロイヤルベビー」の慶事にあやかり、英国王室の国王、王子の名前と新生男児の流行の関係について改めて調べてみた。すると、実に興味深い事実が浮かび上がってきた――。
■英国の名前ランキング、100年以上の変遷を追いかけてみると…
 英国王室の国王や王子にはどんな名前があるのだろうか?
 まずは家系図をもとに基礎知識を確認しておこう。
 今回誕生した「ジョージ王子」はウィリアム王子の長男。チャールズ皇太子にとっては初孫、エリザベス女王にとっては3人目のひ孫にあたる。「ジョージ」は、もともと英国のブックメーカーなどの間で「アレクサンダー」や「ジェームズ」などと並んで下馬評が高い名前候補だった。英国王室の専門家らによると、エリザベス女王の父親にあたる国王、ジョージ6世(在位1936~52年)にあやかった名前だと見られているようだ。
■あやかったのは「英国王のスピーチ」のジョージ6世?
 ジョージ6世といえば、幼少から吃(きつ)音症に悩まされ、人前でのスピーチが大の苦手だったことが映画「英国王のスピーチ」(2010年)で描かれて話題になった。兄にあたるエドワード8世が離婚歴がある米国人女性との結婚騒動で即位して1年もせずに突如退位したため、自らが予期しないまま国王になったという逸話でも知られている。
 このほか、英国王子ではチャールズ皇太子の弟である「アンドリュー」や「エドワード」、チャールズ皇太子の息子である「ウィリアム」や「ヘンリー」などの名前も有名。こうした名前は、伝統的に王室内の王子や国王に繰り返し使われており、一般にも人気が高い名前の“定番”として社会に浸透している。
では、こうした王室の国王、王子らの名前は、英国の新生男児の名前の流行とどんな関係にあるのだろうか? 
 英政府統計局の資料で100年以上の流れを追い掛けてみると、面白い傾向が読み取れる。
表は、その年に生まれた英国男児の名前ランキング上位25位の推移である(スペースの都合で1904年から94年までは10年ごとの抜粋。それ以降は毎年のランキングを掲載)。
 分かりやすいように、ウィリアム(WILLIAM)、ジョージ(GEORGE)、チャールズ(CHARLES)またはその愛称のチャーリー(CHARLIE)、エドワード(EDWARD)、アンドリュー(ANDREW)、ヘンリー(HENRY)またはその愛称のハリー(HARRY)――をそれぞれ着色してみると、各国王、王子の名前の人気の変遷が浮かび上がる。
■「エリザベス女王」即位が潮目
 1904年から94年までの推移を見ると、エドワード7世(在位1901~10年)→ジョージ5世(1910~36年)→エドワード8世(1936年)→ジョージ6世(1936~52年)と継承してきた歴代国王の名前の人気が高いことが分かる。特にウィリアム(WILLIAM)は1904~34年で1~3位。ジョージ(GEORGE)は1904~24年で3位。ともに「トップ3」の常連だった。
 潮目が変わったのはエリザベス女王が即位した52年。
 エドワード(EDWARD)やジョージ(GEORGE)に加えて、ウィリアム(WILLIAM)やチャールズ(CHARLES)などもランキングから姿を消し、代わってアンドリュー(ANDREW)の人気が上昇する。
 アンドリュー王子が誕生したのが1960年のこと。アンドリュー(ANDREW)は1964年に3位に上昇。この時期、国王、王子の名前の中ではアンドリュー(ANDREW)が人気を独占していた格好になる。不思議なことに、1948年に誕生したチャールズ(CHARLES)皇太子の名前はランキング上ではあまり人気が上がらなかったようだ。
 やがて、1982年にウィリアム王子が誕生すると「次の節目」を迎える。
 まずはウィリアム(WILLIAM)が1994年に19位にランクインし、その後、グイグイと順位を上げる。
■「ウィリアム」「ハリー」が急上昇
 1996年から2003年のランキングで目立つのは、やはりウィリアム(WILLIAM)とハリー(HARRY)の人気の高まりだろう。ハリー(HARRY)はヘンリー(HENRY)の愛称。ウィリアム王子の弟のヘンリー王子は親しみを込めて国民から通称「ハリー王子(PRINCE HARRY)」と呼ばれている。
 この2つの名前の人気は、両プリンスへの社会の関心の高さを裏付けていると言えそうだ。
 ちなみに、両親であるチャールズ皇太子とダイアナ妃が離婚したのが1996年。ダイアナ妃がパリ市内のトンネルでの自動車事故で非業の死を遂げたのがその翌年の97年。こうした不幸や試練が重なったにもかかわらず、ウィリアム(WILLIAM)とハリー(HARRY)はその後もさらに人気を高めた。
 一方、見逃せないのはジョージ(GEORGE)の人気。3位に食い込んでいた1904~24年の時代ほどではないものの、人気は徐々に復活。20位圏内でジワジワと順位を上げるなど根強い人気を保っている。


■「チャーリー」「ジョージ」が猛追
 2004年以降もウィリアム(WILLIAM)とハリー(HARRY)はトップ10圏内で着実に順位を上げる。特に勢いがあるのはハリー(HARRY)で2011年にはついにトップの座に登り詰めた。つまり、英国の新生男児の名前全体で「ハリー」が1番人気になったのだ。
 ジョージ(GEORGE)もそれを追いかけるように順位を上げ、2010年には9位とトップ10入りを果たした。まさか、今回のジョージ新王子の名前を先取りしていたというわけではないだろうが、ランキングを見る限り、ジョージ(GEORGE)の人気は最近まで着実に高まっていたことになる。
 この時期の目新しい変化はチャーリー(CHARLIE)。
 チャーリー(CHARLIE)はチャールズ(CHARLES)の愛称であり、2003年に24位に食い込んで以来、急速に順位を上げて2010、11年には5位にまで躍進した。このほか新王子の名前候補で下馬評にあがっていたアレクサンダー(ALEXANDER)やジェームズ(JAMES)なども根強い人気があり、上位の常連になっている。
 ちなみに全体の1位に輝いた名前を1904年から振り返ってみると、最初にウィリアム(WILLIAM)が来た後、ジョン(JOHN)の時代がしばらく続き、デビッド(DAVID)→ポール(PAUL)→クリストファー(CHRISTOPHER)→トーマス(THOMAS)の順番で交代。やがてジャック(JACK)の黄金時代が2008年まで続き、09年からはオリバー(OLIVER)、そして11年のハリー(HARRY)へとつながる――というのが大まかな流れだ。
■今後は「ジョージブーム」も?
最後に、2011年の英国の新生男児の名前ランキングをさらに詳しく見てみよう(調査対象37万974人)。
 やはり人気が高いのは皇太子、王子の名前であるハリー(HARRY)、チャールズ(CHARLES)、ウィリアム(WILLIAM)の3つ。首位に輝いたハリー(HARRY)の人気を反映してか、ヘンリー(HENRY)も28位に食い込んだ。
 今後、注目したいのがジョージ(GEORGE)の動向。
 2011年の時点で12位に付けているが、今回のロイヤルベビー効果で「ジョージ人気」が一気に盛り上がる可能性がある。ジョージ王子にあやかった名前の男児が、あちこちで急速に増えるかもしれない。
■堅苦しさを排除? 増える「愛称」
 最近の名前の流行にはさらに面白い特徴もあるようだ。
 特に目立っているのが「愛称が増えている」こと。
 確かにランキングを眺めると、トップのハリー(HARRY)や5位のチャーリー(CHARLIE)に加えて、3位のジャック(JACK)もジョン(JOHN)やジェームズ(JAMES)やジェイコブ(JACOB)などの愛称、4位のアルフィー(ALFIE)もアルフレッド(ALFRED)などの愛称――といった具合。上位はなぜか愛称が目白押しなのだ。
 これらは「格式の高さや由緒の正しさなどをうまく取り入れつつ、その名前自体が持っている古臭さや堅苦しさはできるだけ避けたい」という親たちの工夫なのかもしれない。
 蛇足だが、英国国教会の関係者によると、ジョン(JOHN)、マシュー(MATTHEW)などイエス・キリストの使徒の名前も、伝統的には人気が高いが、最近はそれらをファーストネームではなく、ミドルネームに付ける傾向が強まっているらしい。社会の風潮を反映した新たなトレンドと言える。
 参考までに、同じ英語圏の米国の状況はどうなっているのだろうか? 少しだけのぞいてみよう。
 2011年の米国での新生男児の名前ランキング上位20位(米社会保障庁調べ)を見ると、これまで取り上げてきた英国王室の名前の中ではウィリアム(WILLIAM)が3位、アンドリュー(ANDREW)が16位に入っているだけ。ハリー(HARRY)もチャーリー(CHARLIE)もジョージ(GEORGE)も上位20位には姿がなかった。
日本経済新聞より引用しました。

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